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第三回 内部通報制度の有効性向上に必要な経営トップのリーダーシップ

改正公益通報者保護法が施行され、多くの事業者で内部通報制度の整備が完了し、既に、その運用に移行していることでしょう。今回は、制度を形骸化させず、有効性を高めるためのポイントの1つである経営トップのリーダーシップについて解説します。

組織全体、部門、チーム等、リーダーシップはさまざまな単位や階層に成立しますが、とりわけ組織全体すなわち経営トップのリーダーシップが、経営上のさまざまな局面で重要なことに異論はないでしょう。これは組織の自浄作用によって不祥事の芽を早期に摘み取るという、内部通報制度の目的を実現するための制度運用においても当てはまることです。

公益通報者保護法は平成16年(2004年)に公布されたのですが、近年においても相変わらず事業者の不祥事が後を絶たないことから、より通報しやすい環境を整えるべく法改正が行われました。旧法令下では内部通報制度が十分有効に機能していないと国が判断した結果です。更に法改正に合わせて事業者が取るべき措置としての指針も示されています。

制度の有効性とはどういうことでしょうか。いろいろな見方ができますが、第一に、法令違反等コンプライアンス上問題のある事案について、早期に確実に通報されることです。そもそも「通報がない、あるいは少ない」では制度が有効に機能しているとはいえません。

大なり小なりコンプライアンス上の問題を抱えている事業者もいることでしょう。逆に「うちは全くもってクリーンな会社だ。だから内部通報もない」と言い切れる事業者は少ないのではないでしょうか。「通報がない、あるいは少ない」といった理由についてはいろいろな見方ができますが、1つには制度利用者の、制度や事業者に対する信頼性の欠如があると考えられます。

通報しようとする者は通報にあたってさまざまなことを思慮します。まずは自身のことです。「通報したら会社に居づらくなるのではないか」、「被通報者から仕返しを受けないか」、「人事上不利益を受けないか」などです。また、通報内容への対処についても考えるでしょう。「どうせうちの会社はまともに取り合ってくれないだろう」や、「うちの経営陣は事なかれ主義で動かない」などです。 このように、通報しようとする者が制度や事業者を信頼せず否定的な判断に至ると通報を断念してしまうのです。

そのような事態を避けるためには何が必要か。それは内部通報制度に対する経営トップ、つまり社長のリーダーシップにほかなりません。仮に、社長が内部通報制度を経営上の重要事項として認識せず、「内部通報制度は売上には直接関係しないから社長の関与は不要」、「制度責任者の○○部長に任せておけばよい」等のスタンスでいると、それが従業員にも伝わり、誰も利用しない形だけの制度になってしまうでしょう。

従業員等、制度利用者は社長すなわち経営トップの本気度を注視しています。経営トップが通報者の保護や、通報に対する真摯な取り組みについてコミットし、それを従業員に対し自らの言葉でアナウンスする等、経営トップの本気度を制度利用者に明確に示すことで、制度や事業者に対する信頼性向上に寄与するのです。

消費者庁が主管の旧内部通報制度認証(旧WCMS認証)に経営トップの取り組みを求めるいくつかの審査項目がありました。例えば、認証に必要な取り組みとして経営トップの本気度を示すためメッセージの発信が求められていました。また国際規格ISO 37002(内部通報マネジメントシステム-指針)5.1.2トップマネジメントの項目には、「リーダーシップ及びコミットメント」として通報者保護を含むいくつかの推奨事項が記載されています。

これらのことからも、内部通報制度における経営トップのリーダーシップの重要性について理解することができます。ちなみに、消費者庁に確認しましたところ、消費者庁下での認証制度の復活の予定はないようです。
(弊社ではISO 37002、改正公益通報者保護法、同法に基づく指針および旧内部通報制度(旧WCMS)認証等の推奨、要求事項を考慮した検証サービスを提供しております)

では、経営トップはどのように制度におけるリーダーシップを発揮すればよいでしょうか。 トップの本気度を従業員などに明確に伝えるためには、例えば、対面の場において、トップ自らの言葉によってメッセージを伝えることが考えられます。「通報者に対する不利益行為は絶対に許さない」、「通報者の保護はトップの責任において約束するので、安心して通報制度を利用してほしい」などをトップ自らの言葉で発信すれば、従業員にトップの想いがダイレクトに伝わり、事業者や制度に対する信頼性も向上するでしょう。例えば年頭や期初のあいさつの機会やコンプライアンスに関する説明会などの機会に発信できればよいかもしれません。対面におけるメッセージ発信が困難である場合は、例えば、動画の配信や社長名書面でのメッセージ発信も考えられます。各事業者の事情に応じたトップメッセージ発信でよいでしょう。

また、トップの本気度が従業員の心中に常に残るよう、トップメッセージの発信は定期的に実施すべきでしょう。更に全ての制度利用者に対して伝えることが望ましいです。

経営トップのリーダーシップの発揮について、前述のWCMSの審査項目やISO 37002に詳細が記載されています。よりご興味のある方は、WCMS報告資料やISO規格書を入手し、自組織の内部通報制度運用の一助にしていただければ幸いです。以上が、経営トップのリーダーシップについての解説となります。

次回は「制度利用者の保護」について解説します。引き続きご一読いただければ幸いです。よろしくお願いします。

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