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第一回 内部通報制度の意義・目的

みなさん、こんにちは。これから6回(約半年間)に渡って、内部通報制度の有効性向上に役立つトピックスをお伝えしていきます。初回は、すでにご承知かもしれませんが、制度の有効性を追求していく上で大事なことになりますので、改めて内部通報制度の意義・目的について考えてみたいと思います。

1.不正行為の早期発見
通常のレポートラインの他に専用の通報窓口を設けることで、不正行為についての情報を経営層にいち早く伝えることが可能となります。例えば、上司による不正等、通常のレポートラインでの報告・相談が現実的でないときでも情報を上げやすくなり、透明性や風通しのよい組織風土を保つことができます。経営層は早期にフレッシュな情報に触れることで適切な経営判断が可能になります。よって、不正行為の早期発見のためには、通報された経営リスクにかかる情報が可能な限り経営層に伝達される体制であることが重要です。

2.自浄作用の発揮
経営リスクにかかる不正情報を入手した経営層は、遅滞なく手を打つ必要があります。ここでの不作為は、経営責任を問われることになりかねません。内部通報制度は単に情報を吸い上げるためだけのものではなく、情報入手後の事実調査、リスク評価、是正、監視等、一連のプロセスが滞りなく実現され、再発防止を含め不正の拡大防止に役立つことが求められるのです。従って、例えば第三者からの経営層に対するモニタリングの仕組み等、経営層の不作為を予防する仕組みについても検討が必要でしょう。

3.不正抑止効果
社会における監視カメラの有効性に、もはや異論はないと思います。働く人々との信頼関係のみに頼っているだけでは世の中は成り立たず、これは企業経営も同じです。「不正は通報され露見する」という意識が全社的に浸透することで不正抑止効果を得ることができます。もっとも、通報を「監視」や 「つげ口」というネガティブにとらえるのではなく、「正しい組織運営に必要な、賞賛されるべき行為」との認識を持ってもらうことも大事です。

4.職場環境の改善
自治体幹部や議員のパワハラやセクハラ等、公的組織におけるハラスメント事件が今も時々ニュースになっています。企業においても、経営を大きく揺るがす重大事案よりも、どちらかと言えばハラスメントのような職場環境に関する通報事案の方が取り扱い件数として多いかもしれません。職場女性比率の増大や多国籍化などによって、ダイバーシティ&インクルージョンが一層重視されるようになり、職場もそれらを容認し推進する風土が求められます。内部通報制度は前述の通り、経営リスクにつながる不正の芽を早期に摘み取ることが大きな目的であるため、ハラスメントのような職場環境の問題に関しては通報では取り扱うべきでないのでは?と考えられる方もいるでしょう。相談事として分類できる軽微な事案が多数通報窓口に寄せられ、経営を揺るがす大きな不正にかかる通報がこれらの通報に埋もれてしまう可能性もあります。しかし、結果的に有能な人材が職場を去っていく事態も大きな経営リスクであり、そのような事態を避けるためには良好な職場環境維持を目的とする通報も受け入れるべきでしょう。担当部門の負担を軽減するため、例えばハラスメント系の通報に関しては通常通報窓口とは切り分け、人事部相談窓口として対処する等の対策も考えられます。

5.通報者の保護
これは内部通報制度の運用成否の鍵と言っても過言ではありません。通報したことにより通報者が、不利益を被ることは絶対に避けなければなりません。人事的な不利益はもちろん、職場で孤立してしまうなどの事態が生じてしまうと、誰も通報しなくなり制度が形骸化してしまうことは明らかです。従って、通報者が特定されないよう秘密保持の徹底や、通報者に対する不利益行為の防止など、通報者保護のための施策を講じる必要があります。これは法令指針においても詳細に記されており、罰則規定もあり厳守すべき事項です。

6.ステークホルダーに対するPR
コンプライアンス経営をステークホルダーにコミットし続けなければ、組織の持続性を保つことのできない時代です。内部通報制度を適切に整備し運用していることを、内外のステークホルダーに公表することは当然求められ、少なくとも通報件数や通報体制など、制度に関する定期的な発信が求められます。例えば、毎年CSR報告書に記載する等の方法が考えらます。

以上、内部通報制度の意義・目的についていくつか挙げてみました。
米国に端を発するコーポレートガバナンス重視の潮流は、資本主義社会を中心に世界中に拡大し日本においても年々その傾向が強くなっています。内部通報制度に対する社会的ニーズもその1つと考えられます。2022年6月に改正公益通報者保護法が施行され、従業員301人以上の組織には体制整備などの義務が課せられております。

次回以降のテーマは、
2回目「内部通報制度の体制整備」
3回目「リーダーシップ」
4回目「制度利用者の保護」
5回目「教育・研修」
6回目「法令指針の注意点」
を予定しています。いずれも内部通報制度の有効性向上に役立つ勘所的な話を中心にしたいと考えておりますので、次回以降もご一読いただければ幸いです。よろしくお願いします。

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